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2007/07/28

羽生三冠の講演

棋士の羽生三冠の講演を聴講する機会に恵まれた。いやあ、久々に感激した。ほんと、1時間30分があっという間だった。

私は羽生3冠のファンなんで羽生氏について書かれている本は大抵読んでる。だけど、本で読んだときは意味が理解できない部分が多く、天才の感性は凡人には理解できないモノとあきらめていたんだけど、実際に肉声で聞くと説得力が違う。断然理解し易かった。

実に充実した内容だったんでホント書きたいこと山ほど有るんだけどいくつかピックアップして紹介。

●将棋の思考とは、直感、読み、大局観
よく、何手先くらいまで読むんですかと質問されるがこれは答えるのがすごく難しい問題。
将棋の思考は直感、読み、大局観で成り立つ。
直感で一局面あたりの着手数80手を2,3手までに絞る。
読みで、数手の局面を読み、大局観で読んだ先の局面の優勢、攻守判断、緩急判断を行う。
2手目で相手が指してくるであろう自分にとって最悪の局面を想定するのが難しい。(minmax法ですな)

羽生氏曰く、年をとるたびに読みの力は衰えていくけれど、経験により大局観や直感が磨かれていくので、年をとることによる読み力の衰えは強さにはさほど影響しない。

(プログラミング的に言うと、直感=前方枝刈、読み=探索、
大局観=評価関数、って感じのようだった)

●決断が大事
深く読んでも、どの局面が優勢かはっきりわかることは少ない。見切りをつけて決断することが大事。

●たまには強めのアクセルを踏む
経験を積むと直感の部分でリスクの少ない無難な手を選択するようになる。短期的にはコレはプラスになるが、長期的にはマイナスになると感じる。たまには、挑戦的な手を打つことも必要。

●プレッシャーはその人の器にかかるもの
高飛びで1.5m飛べる能力のある人なら1mの高さを飛ぶときにプレッシャーはかからないし、逆に2mの高さを飛ぼうとして(もどうせ無理と判っているので)やはりプレッシャーはかからない。
プレッシャーがかかる状況というのは自分の器が一回り大きくなるチャンスでもあり悪いことではない。
プレッシャーを感じずにリラックスしてプレイ出来れば、それに越したことは無いけれど、別にプレッシャーを感じること自体は悪いことでは無い。それよりもやる気があることが大事。
最悪なのは、やる気がないのにリラックスしている状態。
しかし、やる気は天気のように変化しやすいもの。

●やる気を出す方法
やる気を出す方法は?との質問があったが、やる気のある人のそばにいることとの回答。羽生氏はタイトルホルダーなので予選を勝ち抜いてきた勢いのある人と対局するケースが多く、常にやる気のある人のそばにいられるという面で幸せな環境だそうだ。

●忘れるということは悪いことでもない
若い頃は自分の将棋を覚えるのは当然で隣で差している人たちの将棋も全部覚えていた。しかし、年をとると忘れやすくなる。けれどこれは悪いことではないのではないか。
勝ったことを覚えているのは、慢心につながる。
負けたことは忘れてしまえば、負けなかったことと一緒。
また、一度忘れてしまえば、同じことで2度新鮮な気分が味わえるのでお得感倍増。

●運やツキについて
運というものは人を魅了する魔力を秘めている。運や流れの存在を否定はしないが、運不運の考察にウエイトを置きすぎることは問題。そんなことよりも実力をつけることが大事。
(そもそも流れ肯定とか否定などの議論に参加し相手と言い合いするよりも、実力をつけることに専念せよってことらしい。)

●ミスしたとき
ミスをすると次のミスを誘発しやすい。動揺するという心理面に加え、ミスすることで局面が難解になり、さらにミスがおきやすくなる。いったん、0にリセットして考え直すことが大事。

●インターネットによる情報氾濫
情報が入手しやすくなり、上達しやすくなった。しかし、勝負は相対評価なので楽にはなっていない。
知識があるのは前提条件で、その上で、プラスαの何かが必要と感じる。

●ゲームの質の変化
一方、情報氾濫によって将棋のルールは変わらないのにゲームの質が変わってきた。
昔は、知識よりも、混沌とした局面での読みの力が重視されてきたが、現在は知識で決着がついてしまう(序盤で勝敗がつく)ことが多い。
戦法が細分化されてきて全ての知識を得ることは難しいため、そのときプロで流行している戦法と自分の棋風が合っているかどうかで勝率が変化するようになってきた。

●知識の陳腐化
10代のころ記憶した定跡は今はほとんど役に立たない。しかし、だからといって、若い頃に、定跡を覚えたことが無駄だったのか?というと、そうではない。どれだけ努力すればどの程度の成果が出せるかの目処がつけられるようになるなど、間接的な効果があるんため、知識が古くなるからといって、知識を習得する努力をあきらめてしまうことは良くない。

●プロとアマの差
プロでも10手先の局面が想定内になることは稀。プロでも読み間違いはよくある。それでもプロはアマより確実に強い。この差は羅針盤の精度の差のようなもの。プロとアマの差はミスをする回数の差というより、ミスのしたときの失点の差。大きなミスをしないのがプロということらしい。

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